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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)289号 判決 1949年11月28日

被告人

川原金市

主文

原判決中被告人川原金市に関する部分を破棄する。

被告人川原金市を懲役八月及び罰金六万円に処する。

右罰金不完納の場合は金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押收にかゝる裸麦六十瓩及び粳玄米六十瓩の換價代金三千四百六十二円は被告人川原金市からこれを沒收する。本件公訴事実中被告人が水田マキと共謀の上昭和二十三年十二月二十三日頃から同二十四年二月中旬頃迄の間佐世保駅附近に於て精米六石四斗六升、押麦五斗をその販賣統制額を超えた代金計十万九百円で氏名不詳者多数に販賣したとの点については被告人は無罪

理由

前略

所論池田久七の顛末書(記録第三六丁)の記載によれば、同年一月末頃玄米一俵(六〇キロ入)をたつて賣つて呉れとの申込みを受け、断り切れずに代金四千円を受取り、玄米は四、五日して同人の長男幸男が作井平の某方まで届けてやつたと言うのであつてなる程同年二月中旬のことではなかつたかも知れぬが同年一月末から二月上旬にかけて、賣買の合意代金の授受つゞいて現物の引渡がなされているのである。犯罪事実そのものでない日時の如き些末の点については法律上別段の定めのない限り、数学的の正確さを要しないのであるから、多少の正確を欠き、又証拠に多少の不備があつても判決を破棄するに足る欠点があるとは言えない(昭和二三年一二月一六日最高裁判所第一小法廷判決参照)

被告人が判示の頃粳米計六石四斗七升、押麦五斗を各その販賣統制額を越えた判示各代金額で佐世保駅前附近で氏名不詳者多数に賣渡したとの点(原判決第二の(二)(三)の事実)についてはその主要事実である、販賣統制額超過の代金で販賣した点については、被告人の自供以外に、これを認むるに足る補強証拠がないのであるから、これを有罪とした原判決は刑事訴訟法第三百十九條第二項に違反するものと謂うの他はない。此の点は控訴の理由がある。(中略)

原審第二回公判調書によると、裁判官が檢察官の起訴状朗読後刑訴法第二九一條第二項及び刑訴規則第一九七條第一項各所定の事項を告げた後自ら被告人に対し、稍々詳細に事案の内容に亘つて訊問していることは所論の通りである。然し乍ら、法第三一一條によれば、被告人は、公判廷において、終始沈默し、又は箇々の質問に対し供述を拒むことが出來るか、任意に供述する場合には裁判長は何時でも、すなわち、公判手続の如何なる段階にあるを問はず、必要とする事項につき被告人の供述(それが証拠となることは勿論である。)求むることが出來るのである。換言すれば法第二九一條の手続が終つた直後、裁判官が被告人の供述を求め爭点となる部分を明らかにすることは、毫も、新刑事訴訟法が当事者主義を前進させる趣旨において、旧刑訴法第二二八條の規定を削除し、被告人訊問の制度を全面的に廃止したことと、矛盾するものではなく、寧ろ新法による訴訟手続の進行上、望ましいこととされているのである(橫井大三著、遂條解説八一頁参照)それは原審裁判官の執つた、訴訟手続は極めて、適切妥当であつてこれを以て、判決に影響を及ぼすべき違法の訴訟手続があるとする控訴趣意第二点は全く、その理由がない。

法第二五六條によれば、起訴状には(一)被告人の氏名その他(二)公訴事実、(三)罪名を記載すべく而して、罪名は適用すべき罰條を示して記載しなければならないけれども、その記載の誤りか被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさないとされているのである。從て本件起訴状に罰金等臨時措置法を罰條として記載しなかつたとしても被告人の防禦に実質的の不利益を生ずる虞はないものと認められるから、原審裁判官が罰條の追加又は変更を命ずることなしに、審理をなした結果同法第二條を適用して裁判をなし本件公訴を棄却しなかつたのは当然である。そもそも法第二五六條が起訴状に罰條を記載させる所以のものはよつて以て被告事件(公訴事実)の同一性を確定させるためであつて罰金等臨時措置法の如き罰金額に関するものは起訴状に記載するを要しないものと解すべきであらう。なお罰金等臨時措置法は昭和二十四年二月一日から施行されて居るのであるから、本件被告人の食糧管理法違反の事実中同日以前の分については、犯行時と裁判時において、罰金額につき変更がなされているのであるから、原判決か右法律施行前の所爲につき罰金を科するにあたつては、刑法第六條第十條により、新旧比照をなし、軽い犯罪時の罰金額に從い、右措置法施行後の犯罪に対しては同法をそのまま適用した上、以上各罪について定められた罰金の合算額範囲内において、罰金額を量定したものであろう。原判決はその法律適用をなすに際し、この趣旨を明示しなかつたので、弁護人から所論のように、法律を誤つたとの誤解を受けるに至つたものであろう。夫れはとも角、原判決が罰金等臨時措置法刑法第六條第十條を適用したのは相当であるから、この点の控訴趣意も採用し得ない。

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